33年の時間を巻き戻し天文少年ならぬ天文壮年へ再入門。隊員1名、200mm、65mmの望遠鏡と双眼鏡で星空を楽しんでいます!
狂犬病は過去の病気か?
2019-10-27 Sun 00:00
1905291.jpg改訂新版 ヒトの狂犬病 -忘れられた死の病-』 高山直秀著
             時空出版 2000年 2000円
復刻版 東京狂犬病流行誌』 狂犬病臨床研究会
             時空出版 2007年 2400円

鳥インフルエンザ、口蹄疫、豚コレラ、近い将来国内へ持ち込まれる心配のあるアフリカ豚コレラなどなど、人の健康や経済活動に直ちに大きな影響をもたらす動物の感染症はたくさんあるが、ノルウェー人女性が狂犬病で死亡したというニュースを数ヶ月前に目にしたのをきっかけに日本の狂犬病の現状が気になった。
 →ノルウェー人女性が狂犬病で死亡、旅先のフィリピンで助けた子犬にかまれる
目病み女に風邪ひき男は別にして、たいていの人はどんな病気でもなりたくないものだろうが、狂犬病は罹りたくない病気の最たるものの一つではないだろうか。上のニュースを読んでから、狂犬病清浄国ノルウェーでの事例は、同じく清浄国と言われる日本にとって大切な示唆を与えるのではないかとずっと気になっていた。また、子ども科学電話相談での「なぜ日本から狼がいなくなったのですか?」という質問の回答とも関係しそうなので、狂犬病関係の本を探して読んでみた。
 1冊目の『改訂新版 ヒトの狂犬病 -忘れられた死の病-』は、長らく都立駒込病院でワクチン外来を担当してきた高山医師が、日本人の中に狂犬病に対する警戒心が薄れていることを危惧して、再認識を呼びかけるために書かれている。具体的な症例も多く紹介されていて、大変わかりやすく読みやすい内容だったのでポイントをダイジェスト的にピックアップしてみた。また、2冊目の『復刻版 東京狂犬病流行誌』は、第2次世界大戦後の東京で狂犬病が流行していた時期に、狂犬病動物の検査に当たっていた東京都立衛生研究所の上木英人獣医師が、研究成果と経験をまとめて「東京都立衛生研究所事業月報」に連載したものに、後日加筆して自費出版されたものの復刻版で、今や手に入れることのできない貴重なデータが満載で、現場の緊張感が伝わってくる内容だ。

近年日本で発生した狂犬病:
 日本国内では、1950年に狂犬病予防法が施行され飼いイヌの登録とワクチン接種の義務化と野犬の捕獲が行なわれるようになったことで、1956年にイヌとヒト、1957年にネコでの発症を最後に報告されていない。しかし、その後も、海外で噛まれて帰国後に発症死亡した例が、1970年、2006年と2例ある。

狂犬病の感染:
 狂犬病は現在でも有効な治療方法がないので、咬傷などによる感染後、15日程度から1年以上の潜伏期間を経て、一旦発症してしまうとほぼ100%死に至るという。狂犬病は、感度に違いはあるようだが、ほぼ全ての哺乳動物に感染する。
 高度感受性群:キツネ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル、
 中等度感受性群:イヌ、ネコ、スカンク、アライグマ、コウモリ、マングース、
         サル、ヒトなど。
感染経路はよく知られる咬傷以外にも、動物の死体から、コウモリの住む洞窟へ入り呼吸器から、狂犬病ワクチン製造の実験室内で、感染動物の乳を飲んで、角膜その他移植、母子感染などがある。臓器移植で狂犬病に感染してしまう症例は、医療関係者の狂犬病経験不足によって、臓器提供者の死亡原因調査から狂犬病感染を排除してしまったための悲劇といえる。

予防的ワクチン接種と曝露後発病予防接種の重要性:
 一旦発症してしまうとほぼ100%死に至る狂犬病ではあるが、事前に予防的ワクチン接種をしておき、最悪咬まれたり接触した場合には速やかに曝露後発病予防接種を正しく行うことで発症を抑える効果は高いようだ。発症した時の悲惨さとワクチン接種の料金を天秤に掛ければ、狂犬病常在地への海外旅行の際には予防的ワクチン接種をしておくに越したことは無いと思う。著者からの警鐘として、近年の曝露後発病予防で発症数を減らしている国では、狂犬病保菌動物が減っているわけではないので、日本人を含めて冒頭に挙げた例の様な危機感のない外国人にとっての危険は大きいことが述べられている。

日本国内での意識と現状:
 海外で狂犬病感染汚染国で動物に噛まれて帰国した場合でも、「イヌに咬まれた傷など消毒して抗生剤でも飲めばいい」などとおっしゃる医師もいるようだ。これは問題外だとしても、WHOが勧告している攻狂犬病免疫グロブリン(RIG)は日本国内では製造も輸入もされていないので、一般には入手できない。せめてもの人体用狂犬病ワクチンも国内1社しか製造していないので、常備している病院は少なく、曝露後ワクチン接種が可能な病院は非常に限られているという。最近、筑波大学附属病院が茨城県初の高度救命救急センターの指定を受けたというニュースがあった。ぜひ、狂犬病への対応もしてもらいたい。

1906222.gif狂犬病清浄国とは言えない日本:
 左図は、厚生労働省:狂犬病のサイトにある、狂犬病の発生状況の地図で、日本を含むわずか10カ国のみが清浄国として青く塗られている。
 →厚生労働省:狂犬病
ところが、日本では狂犬病監視調査システムが確立していないので、WHOの定義で言うところの清浄国にはならないと書かれている。つまり、網の目が荒いのでひっからないから狂犬病は無いと言っている様なものということらしい、な、な、なんと。

狂犬病清浄国日本の危機:
 日本の狂犬病対策は、イヌからヒトへの感染が多いことに着目して、イヌの集団を免疫することでヒト社会へ狂犬病が侵入することを防ぐという方式を取ってきて、それなりに成功はしているといえる。WHOはイヌの狂犬病ワクチン接種率の目標を75%にする様に勧告している。これには国民の理解と協力が必要なのだが、日本では60年間も国内発生がないのだからもうそろそろイヌの狂犬病ワクチン接種は必要ないだろうという声が高まってきて、近年接種率が低下してきている様だ。イヌの登録数とペットフード売上からの類推では、狂犬病ワクチン接種犬はわずか43%程度という数字もあるらしい。海外への渡航者が増え、日本を訪れる外国人も増え、また合法/違法を問わず海外から多くの動物が持ち込まれる現代に於いて、イヌへのワクチン接種は、イヌの狂犬病予防だけでなく、むしろヒトを狂犬病から守ることにより大きな目的があることを、社会全体の理解として周知させることが喫緊の課題だと感じる。グローバル社会と言いながらこうした泥臭い汚れ仕事から目を逸らしていては、安心して暮らせるグローバル社会はやって来そうにない。

[追記]偶然のタイミングだが、本記事の2日後に狂犬病予防法違反で書類送検されたニュースが出ていた。
 →狂犬病予防接種せず、女性かむ 飼い主書類送検へ 警視庁
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