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『強い力と弱い力』 エキサイティングな素粒子物理学現代史
2013-05-06 Mon 00:00
素晴らしい本を見つけてしまった。あまりに素晴らしいので続けて2回読んでしまった。

1304073.jpg『強い力と弱い力』 大栗博司 幻冬社新書 880円 2013年

2012年7月4日、CERNによってヒッグス粒子の発見が発表され、これによって素粒子の標準模型は完成したということのようだ。この機会にヒッグス粒子と最近の素粒子物理学について復習しておこうと図書室で本書を借りて来た。

まず最初のところで、今回のヒッグス粒子発見の報でよく目にした「ヒッグス粒子は物質の質量の起源」は正確さを欠く事が解りやすく整理されている。
 物質の質量〜原子の質量〜原子核の質量〜陽子の質量+中性子の質量
 陽子(中性子)の質量〜クォークの質量(1%)+強い力のエネルギー(99%)
つまり、「ヒッグス粒子は素粒子であるクォークの質量の起源」であって「物質質量の1%へ寄与しているだけ」というのがより正しい。本書の副題は「ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く」だが、まずいきなり目から鱗、マスコミによってかけられた催眠術を解いてくれた。そして、さらに読み進むうちに本書の真価はこんなものではないことも分かって来た。

ヤン-ミルズ理論、トフーフト、漸近的自由、パリティ非保存、BCS理論、自発的対称性の破れ、南部-ゴールドストーン・ボゾン、カイラル対称性、ワインバーグ-サラム理論、電弱統一、、、学生時代から耳や目では馴染んでいたが、物理学それも私のような実験系の学部学生レベルには遥かに遠いところの話と感じられていた手強そうな事柄ばかりだ。しかし、本書を読んで、いくつかの事柄については30年振りに何となく分かったような楽しい気分になれた。

特に、重力、電磁気力、強い力などに比べて分かり難くつかみ所が無いと感じていた弱い力について、ヤン-ミルズ場という土俵が用意されたことで、電磁気力と弱い力と強い力の間に共通する性格が見えてきて力の統一理論へと進めたこととか、南部-ゴールドストーン・ボゾンは自発的対称性の破れが起きると生み出される質量ゼロの粒子で、超伝導状態(相転移によって自発的対称性の破れが起きている)へ電磁波(光子)が入ろうとすると南部-ゴールドストーン・ボゾンと合体して質量を持ってしまうために超伝導状態の物体内へ磁力線が入り込めなくなる「マイスナー効果」が起こると説明されることとか、ここまででも得るところは沢山あった。そして、この辺りまで読めば、超伝導の話だけでなく素粒子の世界での「質量のない粒子が質量を持つようになる」というその先のヒッグス粒子へ続く筋書き(南部陽一郎の思考の流れ)がなんとなく見えてくるのもよくできた構成に感じられた。

ワインバーグが弱い力の3つの謎((1)Wボゾンの質量、(2)対称性の無いもの(種類の違う素粒子)を入れ替える、(3)フェルミオンの質量)をヒッグス場で解いていく部分は本書のクライマックスだろう。一見対称性が無い様に見えても、それは本来あった対称性が何らかの場によって自発的に破れている姿なのだという考え方から、カイラル対称性を破るためだけにヒッグス場が持ち込まれる。ちょっとご都合主義的で様々な場が導入される口実になりそうではあるが、ヒッグス粒子が見つかってしまったということは、ヒッグス粒子を予言しない「テクニカラー理論」ではなく予言する「ヒッグス理論(ヒッグス場の導入)」が正しかったことになるわけで、少なくともここまでのところ自然はそのように振る舞っていると認めざるを得ないということのようだ。いやぁ、実におもしろい。

ヒッグス粒子の発見はすばらしい成果だが、ここへ至る過程で名の通った天才たちが繰り広げてきたパッチワーク的知的冒険の歴史はそれにも増してエキサイティングであり、その流れを知ることでヒッグス粒子発見の意義を理解できることを本書は教えてくれる。そして、20世紀後半の素粒子物理学史を彩る多くの天才たちの中でもとりわけトフーフトと南部陽一郎の並外れた天才っぷりが特に印象的に描かれている。

本書はこの難しい分野を驚異的に分かりやすく解説している希有な本だと感じたが、私の理解不足から間違った紹介をしているかもしれないので、ご興味ある方はぜひご自身で読んでいただきたい。

なるべく蔵書を増やしたくないので図書室にリクエストをして借りて読むことにしているが、この本は図書室で借りて読んだ後も手元に置いておきたいので改めて自分で買ってしまった。ともかく、記事のタイトルにしたように「エキサイティングな素粒子物理学現代史」として素粒子マニア必読の一冊として推薦したい。
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この記事のコメント
面白そうな本のご紹介ありがとうございます。機会があれば私も読んで見たいと思います。

 最初に「ヒッグスは物質の質量の起源」というのを否定しているのは良いことだと思います。この誤った風説(※)の理由が、全面的に出版界とマスコミにあるのは間違いないのですが、それを容認してきた研究者にも一端の責任があると思います。自らの研究分野を誰しもが最重要と考え、それが宣伝されるのを喜ぶのは当然ですが、ウソの領域に入ってはいけません。率直に反省すべきだと思います。

(※)ヒッグス粒子が質量の起源の一翼として働いているのは事実ですが、質量の起源はエネルギーであって、ヒッグスはその一種の生成機構であるというのが正しいですよね。ヒッグス以外の方法でも質量が生成できる、と言う意味で、私は、ヒッグスは質量の生成機構の一種に過ぎず、(根本としての)起源そのものではないと思います。
 
 もっとも、相対性理論をかじるとすぐわかるように、すべての運動エネルギー、位置エネルギーは、静止質量の(現象的な)起源になります。(我田引水ですみませんが、最近発行した私たちの同好会誌(下のURLリンク)の「位置エネルギーとは何か」をご紹介させていただきます)。これがなぜかということが解けないと質量の起源は本当にわかったことにはならないと思います。

 もっともヒッグス粒子が重要なのはその通りで、それは上の状況によるためではなく、そのようなスカラー粒子がWやZ粒子と同じ質量領域に存在する、ということ自体が謎だからだと私は思います。

 ところで、「テクニカラー理論」は否定されたと読めるように書かれているみたいですが、見つかったとされるヒッグス粒子が実はテクニカラーの一味である、という可能性はもうないのでしょうか。
2013-05-06 Mon 08:13 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>機会があれば私も読んで見たいと思います。

かなり難しい内容をインチキな説明でなくものすごく分かりやすく解説してくれている本だと私には感じられました。専門家の厳しい目で見た時には如何でしょうか。ぜひS.Uさんのご感想をお聞かせください。

>我田引水ですみませんが、最近発行した私たちの同好会誌(下のURLリンク)の「位置エネルギーとは何か」をご紹介させていただきます

西中筋天文同好会『銀河鉄道』最新号、後ほど読ませていただきます。今号は常連以外の執筆者のご参加もあってよろしいですね。

>ところで、「テクニカラー理論」は否定されたと読めるように書かれているみたいですが〜

超対称性理論では5個(でしたっけ)のヒッグス粒子が考えられるので、この度見つかったヒッグス粒子が標準理論の言うヒッグス粒子かどうかはまだ分からないとは書かれていました。「テクニカラー理論」否定まで書かれていたかどうか、私の読みが浅いのかもしれません。再読してみます。S.Uさんもぜひご確認ください。
2013-05-06 Mon 21:29 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>インチキな説明でなく

 お薦めありがとうございます。すぐにというわけにはいかないかもしれませんが、機会を見つけて読んでみます。

 最近の日本語で書かれたものは、インチキな説明は少ないと感じます。その分野の研究者はインチキは書かないものです。素粒子論の専門家が、「ヒッグスはすべての質量の起源である」と言うことは考えられません。ただ、日本語感覚に問題があって、「源」とか「原因」とかの意味で、ヒッグスを質量起源と関連づける表現はあるかもしれません。

 「テクニカラー理論」についてはまた今後気をつけてみます。LHCでの解析状況で変わるかもしれません。
2013-05-07 Tue 07:05 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>「テクニカラー理論」は否定されたと読めるように書かれているみたいですが、見つかったとされるヒッグス粒子が実はテクニカラーの一味である、という可能性はもうないのでしょうか。

やはり著者は「ヒッグス粒子が発見されればヒッグスたちの理論が正しく、テクニカラー理論は誤りであることが検証できるからです。その意味で、ヒッグス粒子の有無が注目されていたのです。」と書いてました。
2013-05-07 Tue 15:31 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>テクニカラー理論
 ありがとうございます。この著者の論は、ヒッグス粒子の測定によって通常のテクニカラー理論が排除できるということではないかと思いますが、厳密な論理は私にはわからないので、また本を読んでぼちぼちに勉強します。

 一方、下のサイトによると、見つかったヒッグス粒子がテクニカラーの複合粒子と見なせる可能性もあるようです。

(名古屋大KMI研基礎理論研究センター)
http://www.kmi.nagoya-u.ac.jp/CT/jpn/news/2013/post_5.php

 ヒッグスは素粒子で超対称性理論の構成の一部であるという理論がまあ主流なのでしょうが、個人的には、標準模型でヒッグスだけスカラー(スピン0)で、あとのスカラーは超対称性粒子というのは、どうも話がうますぎて、テクニカラーもスジとしては悪くないと感じます(理論の適否は判定できないので感じるだけです)。

 ところで、かすてんさんは、「30年ぶりにわかった」と書いていらっしゃいますが、ちょうど30年前の1983年にWボゾン、Zボゾンが発見された時のことは覚えていらっしゃいますか。
2013-05-07 Tue 18:02 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>テクニカラー理論

テクニカラー理論は今回初めて耳にしたものなので、私はこれ以上は着いていけません。どうでも良い事ですが、「テクニカラー」という名称が「コダカラー」とか「トリニトロンカラー」みたいでレトロな響きが良いです。

>「位置エネルギーとは何か」

読ませていただきました。位置エネルギーは運動エネルギーに変わるというのが私の理解でしたが、さらに詰めれば質量(欠損)へ帰結するのかと新鮮に感じました。これはS.Uさんのオリジナルの説明方法ですか、それとも近年の主流の説明方法ですか。ところで、最近は位置エネルギーの概念は中学理科まで降りて来ているのですか。

>1983年にWボゾン、Zボゾンが発見された時のこと

そのころすでに物理から離れてサラリーマン生活をしていましたので新聞記事を読んだ以上の記憶はないです。私の「30年ぶり」はそのイベントを意味したものではありません。その時、物理界は今回以上に湧いたことでしょうね。
2013-05-07 Tue 21:18 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>「テクニカラー」
 テクニカラーがレトロなのは、昔の映画フィルムを思い出すからですね。これで、ワーナーブラザーズとか20世紀Foxとか言い出すとトシがばれます。

>位置エネルギーは運動エネルギーに変わる
 周期彗星の運動などでは、位置エネルギーが運動エネルギーに変わりますが、軌道が太陽の周りに拘束されている限りは、位置エネルギーと運動エネルギーの和は一定でつねに負です。
 厳密にいうと、この位置エネルギーと運動エネルギーの和を束縛エネルギーと呼んで、これを測定される質量欠損の説明とするのが原子核物理流ですが、今回のような地上に静止している物体の場合は、運動エネルギーがないので、位置エネルギーが質量欠損になる、と説明しました。お読み下さりありがとうございます。

>中学理科
 中学理科は私たちの頃よりも概ね易しくなっているのだと思いますが、「力とエネルギー」の項目は難しくなっていて、位置エネルギー、運動エネルギーの計算は出てくるし、重力と垂直抗力の矢印がそれぞれ重心と机の表面から正しく引けないといけません。これは相当難しいと思います。これで力学が早々といやになる子が出なければいいのですが。

>1983年にWボゾン、Zボゾンが発見された時のこと
 私は、当時、新聞もとっておらず、テレビも見なかったので、論文をコピーして読んだことしか憶えていません。ネットもなかったので、世間でどれほど騒がれたのかわからないのです。
 物理学界では、W,Zの発見時よりも、それ以前にワインバーグ、サラム、グラショウが先行して1979年にノーベル賞を受賞した時のほうが、盛り上がったかもしれません。
2013-05-07 Tue 22:38 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>ワインバーグ、サラム、グラショウが先行して1979年にノーベル賞を受賞

なじみのある電磁気力となんだかよくわからない弱い力が根っこは同じという電弱統一、これは学生時代の印象的な出来事の一つかもしれません。

ところで、物理学者のみなさんは4つの力を統一させようと頑張っていらっしゃいますが、宇宙がこの先ますます冷えて行くと、現在の4つの力はさらに5つとか6つの力へ分かれて行くのでしょうか。
2013-05-08 Wed 12:33 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>電弱統一
 そうですよね。こちらのほうが意外だったので、物理関係者はこちらがより記憶にあると思いますが、業界外ではどうだったのか、もはやわかりません...

>現在の4つの力はさらに5つとか6つの力へ分かれて行く
 おっと、すごいことを考えていらっしゃる...

 突然、宇宙の真空で一斉に相転移が起こって、ダークエネルギーが湧いて出たり、物の質量が変わったりするなどという恐ろしい話は聞いたことがありますが、力の種類が分かれていくことについては考えたことがありませんでした。
 
  可能性としては、あるんですかね。例えば、既知の力が別れて増えるとしたら、カラーのSU(3)対称性が破れて強い力が2種ないし3種になるとかですか。ありえないことではないでしょうね。そもそもなんで3つが平等なのかわからないし...
 
2013-05-08 Wed 18:23 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>5つとか6つの力へ分かれて行く

第5の力(さらに第6の力)というアイディアは本当にあるのですね。(以下のリンクは全体をコピペして下さい)
http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=第5の力&oldid=46556383

重力が別れた第1の相転移が10E-44秒、強い力が別れた第2の相転移が10E-36秒、電磁気力と弱い力が別れた第3の相転移が10E-10秒、そして現在138億年(=10E17秒)のところにいます。3回の相転移は一瞬の様ではありますが、第1から第3の間が34桁も違うのに比べれば第3から現在まで27桁しか違っていないとも言えます。宇宙の余命からすれば現在もまだビッグバン直後で、今後も力の分化が起こっても良いのかなと、インチキ宇宙論を考えてみた次第です。
2013-05-09 Thu 22:59 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>第5の力
 Wikipediaにある第5の力は、かつては重力に逆2乗則と違う、近くでさらに影響が大きくなる別の成分があるのではないかという可能性を予測したもので、この可能性は最近では余剰次元と関連づけられて研究されています。

 このWikipediaにある藤井保憲先生は、「物理基本定数の変化」、つまり電磁気力の強さなどが宇宙の歴史的時間とともに変化していないか研究されています。ネットで読める文献がないかちょっと探してみましたが、すぐには見つかりませんでした。ご興味がありましたらこの先生の仕事は面白いと思いますので調べてみて下さい。また、面白そうな文献があれば、お知らせ下さい。

2013-05-10 Fri 07:32 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
物理定数も宇宙の大きさと関係する変数だという話は耳にしたことがあります。
2013-05-10 Fri 11:32 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>物理定数も宇宙の大きさと関係する変数

それはたぶんディラックの大数仮説ですね。

http://ja.wikipedia.org/wiki/大数仮説

藤井先生のこれに関する論文が数理科学にあるので機会があれば見てみて下さい。ディラックのアイデアは過去のものかもしれませんが、実験的探索はいつの時代にも有効です。

http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902213754725732
2013-05-10 Fri 18:54 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
これはディラックの提唱だったのですね。
人類がいつまでも退屈しないようにと残してくれたなぞなぞでしょうか。
2013-05-10 Fri 21:07 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>人類がいつまでも退屈しないようにと残してくれたなぞなぞでしょうか

 そうでしょうね(笑)。
 現代では、幸か不幸かまだまだ忙しくて、こんな話に付き合ってられない人が多いでしょうけどね(笑)。
2013-05-10 Fri 22:39 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>現代では、幸か不幸かまだまだ忙しくて、こんな話に付き合ってられない人が多いでしょうけどね(笑)。

まったくです、問題を次から次へとややこしくする輩が多くて退屈している暇がありません。
2013-05-11 Sat 11:37 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
この項、冒頭でご紹介の『強い力と弱い力』を読みました。
 確かに、画期的にまじめにわかりやすく書かれています。大事なことは、工夫して表現され、かつ繰り返して書かれているので、わかりやすいのだと思います。でも、内容がけっこう欲張りなので、20世紀後半の素粒子物理の発展の概略をまったく知らない人でもこれを理解できるのかどうか、というとちょっとわかりません。

 「テクニカラー理論」では観測できるヒッグス粒子は出ないので、見つかった粒子がヒッグスであればテクニカラーではないということが明瞭に書かれていました。ただし、テクニカラー理論では、テクニハドロンという新粒子が出てくるので、論理的には新粒子の種類を確実に見分ける手段の説明がないとこの話は完結しないことになります。ページ数の都合で、「テクニカラー理論」の名称くらいしか紹介できなかったのでしょう。
2013-06-24 Mon 07:26 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>内容がけっこう欲張りなので、20世紀後半の素粒子物理の発展の概略をまったく知らない人でもこれを理解できるのかどうか、というとちょっとわかりません。

20世紀後半の素粒子物理の発展の概略をまったく知らない人が本書を楽しめないのは仕方が無いかと感じます。事の起こりから書き始めるか、途中までは分かっていると仮定して書き始めるか、これは執筆される方にとっての悩み所だと思いますが、本書は後者を選択した成功例でしょう。高度な専門書ではないのにそれが巧く行っているのは著者の力量と思います。

>テクニカラー理論では、テクニハドロン

テクニカラー理論も新粒子を予言していたのですか。でも今回の新粒子騒ぎの中でいったいどちらなんだという議論が全然聞こえて来ないという事は、きっとテクニハドロンは126GeVとは全く違う場所にピークが予言されているということなのですね。
2013-06-24 Mon 21:40 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>テクニハドロンは126GeVとは全く違う場所にピークが予言されている
 平たく言えば、そういうことです。QCD類似のテクニカラー理論では、観測できるテクニハドロンは1TeV以上とされていましたが、これは最近他の問題から否定的になっているようです。でも、ウォーキングテクニカラーという新しい理論では、126GeVにあってもかまわないということのようです。

 ヒッグス粒子の質量を明示的に予言する理論は過去にも現在にもありませんので、実験で得られたヒッグス質量は、原理的には理論を取捨するのには直接的な影響はしないはずです。質量値だけを深刻に受け取る必要はないのかもしれません。

 私がヘマな解説を書いてもしかたないので、上のほうのコメントでご紹介した記事
(名古屋大KMI研基礎理論研究センター)
http://www.kmi.nagoya-u.ac.jp/CT/jpn/news/2013/post_5.php
から、関連部分を引用します。

 KMI現象解析研究センターが参加しているLHC実験で発見された"ヒッグス粒子"の質量は約125GeV と測定されています。テクニカラー理論の典型的な複合粒子(テクニハドロン)の質量は1000GeVを超えますが、ヒッグスはその他のテクニハドロンとは異なり、近似的スケール普遍性に伴う擬南部-ゴールドストン粒子として振る舞う事が予想され[2]、その質量が小さくなる事が期待されます。ある種のモデル計算では、125GeVヒッグスに矛盾しないウォーキングテクニカラー理論を作れる事が示唆されています[3]。このようなダイナミクスが実際に実現できるかを、モデルや近似によらない第一原理数値計算で確かめる事が次の重要なステップになります。

(S.U注: 上記引用中3行目5行目の「ヒッグス」は、テクニハドロンの1種が昨年見つかった「ヒッグス粒子」であるという理論にもとづいて書かれています。)
2013-06-25 Tue 07:38 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>ウォーキングテクニカラーという新しい理論では、126GeVにあってもかまわないということのようです。

そうなると、今回見つかった粒子がヒッグス理論の粒子なのか、はたまたウォーキングテクニカラー理論の粒子なのか、実験と論議が続くのですね。ウォーキングテクニカラー理論でもスピン0なのかな?

>このようなダイナミクスが実際に実現できるかを、モデルや近似によらない第一原理数値計算で確かめる事が次の重要なステップになります。

さすがにこの辺りの話まで来ると私などは退場せねばなりません。でも、逆に言うと、大栗先生の本書がこんなところまで牽引してきてくれたわけで、冒頭に書いた通りの「素晴らしい本」です。もちろん、私にはS.Uさんという道案内がいるおかげではありますが。
2013-06-25 Tue 09:52 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>ウォーキングテクニカラー理論でもスピン0なのかな?
幸か不幸かスピン0ですね。テクニハドロンのスピンは物によっていろいろですが、引用にあるように「擬南部-ゴールドストン粒子」と言えば(厳密な定義は知りませんが)スピン0のようです。ですから、スピンの決定では区別がつかず、いろいろな崩壊分岐比の精密測定にかかってきます。

>さすがにこの辺り~「素晴らしい本」
 プロの研究者のプロたるゆえんは、自分の研究していることに関連する重要な知識や研究方法を引っ張り出すことのできる人と言えるでしょう。この本は、その関連をわかりやすく示しているので、プロの考え方の道筋のエッセンスが読者にも追えるようになっています。

 でも、いちばんの要因は、かすてんさんが、長い間、この分野をご存じで、また多くの分野にわたって幅広い学識と経験に支えられた優れた感性を持っていらっしゃることだと思います。
2013-06-25 Tue 18:56 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>幸か不幸かスピン0ですね。〜スピンの決定では区別がつかず、いろいろな崩壊分岐比の精密測定にかかってきます。

そうですか、スピンでは見分けがつかないということは、実験屋さんたちには膨大な仕事が待っていそうですね。

>長い間、この分野をご存じで、また多くの分野にわたって幅広い学識と経験に支えられた優れた感性

これはいくらなんでも言い過ぎでしょう。この先30年分以上の讃辞を先にいただいちゃいましたよ。
2013-06-25 Tue 20:19 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>実験屋さんたちには膨大な仕事が
実験屋としては、ただひたすらに有り難いことです。

>これはいくらなんでも言い過ぎでしょう。この先30年分以上
 はぁ、そうでしたか。
 でも、ご幼少の時より、いろいろな学問分野をすでにン十年間深く磨いていらっしゃることは間違いないので、そう申し上げて差し支えないかと思います。
2013-06-26 Wed 06:21 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
どれも学問レベルではないですが、めぐりめぐって素粒子物理学の進展を趣味の領域で楽しめているわけで、こんな贅沢はそうそうできる体験とは思えません。
2013-06-26 Wed 22:48 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
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